記事紹介2023年11月09日
単身世帯がマンションなどを購入する例が増えている。住宅価格が上がり続ける中、資産としての家を所有し、家計の安定や老後の安心につなげようと考える人が多いとみられる。ほかの世帯に比べて収入を得る手段が限られる単身者は、住宅購入の際にどんな点に注意するべきか。現状や専門家の意見を取材した。
名古屋市の会社員の女性(41)は、市内のターミナル駅に近い2LDKのマンションを、今年9月に4200万円ほどで購入した。賃貸住まいだったが「新築マンションの価格は上がり続けそう。それならば今が一番安いのでは」と考えたという。将来は関西地方の地元に帰ることも考えており「売却も視野に、資産性の高さも考慮した」。
◆老後に備えて
首都圏の新築マンション契約者にリクルートが聞いた調査では、2022年の単身世帯の割合は18・2%と、01年の調査開始以降で最高だった。その理由は「資産を持ちたい」が男性43・4%、女性41・8%でともにトップ。「老後の安心のため」との回答も多い。
同社の住宅購入に関する無料相談サービスの「SUUMO(スーモ)カウンター」を訪れる単身者の割合も年々上昇しており、単身者向けのマンション購入講座は人気が根強いという。同社首都圏中央グループの半田絢千(あやせ)さんは「20代は投資の視点を持ちながら検討する人が多く、40、50代は将来賃貸が借りられなくなるリスクを心配する発言を耳にする」と話す。マンションの価格はここ数年上昇が続いている。「賃貸の家賃も高いので、ここで資産を持っておこうか、という相談も多い」という。
一般社団法人女性のための快適住まいづくり研究会が、都内で10月に開いた女性向けの講座。同法人副代表の白石ひろみさん(58)は「首都圏では単身世帯の増加に対して供給が不足しているため、1LDKや2LDKを購入しておけば、将来売りたい、貸したいと思った時に需要が多く、資産価値が保たれやすい」と受講者に説明した。
さらに「かつてはファミリー向けばかりだったが、近年では大手不動産も単身者向けの物件を造り始めている」と白石さん。安全面や収納の広さなど女性のニーズへの対応に力を入れた物件も多く、講座の受講者の3分の1ほどがマンションを購入するという。
実際に単身者が購入する場合、どんな点に注意するべきか。住宅専門のファイナンシャルプランナーで「家計とマイホーム相談室」(名古屋市)代表の草野芳史さん(52)は「例えば夫婦なら何を優先するか意見が違えばよく考えるきっかけになる。単身者は『なんとでもなる』と、簡単に購入しやすい」と話す。
ライフプランに大きな変化が起こりうることにも注意したい。思いがけず結婚したり、実家に戻る必要に迫られたりするケースも考えられる。例えば40平方メートルの1LDKなら、結婚して2人になっても問題はないかもしれないが、子どもが生まれれば、住み続けるのは難しい。
病気やけがで仕事が続けられなくなることも。その場合、他に稼ぎ手がいない単身者は収入の維持が難しい。「頭金なしのフルローンを組み、緊急時に売却しようとすれば担保割れにつながる可能性もある。預貯金があれば、ローンでの破綻は防げる」。また、40歳以上で預貯金が十分ない場合、借りすぎると老後に破綻する恐れもある。
◆万一に備えを
万一への備えにはさまざまな方法がある。草野さんは「預貯金を確保するほか、保険でカバーする方法、また戻れる実家があれば対策になり得る。人によってどんな注意が必要か、家を買う前によく検討してほしい」と語る。
住宅ローンは金融機関の競合が激しく、草野さんは「金利での競争だけでなく、付帯サービスがかなり手厚くなっている」と語る。返済中に契約者が亡くなった場合に残高分の保険金が支払われる団体信用生命保険(団信)では、がんになった場合にも適用される「がん団信」を無料で付ける金融機関が増えている。さらに、特定の病気になった場合などに保険金が出る商品もあり、草野さんは「特に単身者は随分気持ちが楽になるのでは」と話す。
長く住宅ローンの金利は低い状態が続いているが当然、変動金利は上昇のリスクがある。不動産情報サイト「SUUMO」編集長の池本洋一さんは「変動で組む場合でも、固定金利で同額を借りた場合の返済額を考え、無理のない額にすることや、固定と変動の割合を決めて借りられるミックスローンを検討する方法などがある」と説明する。
◆返済50年ローンも
住宅の購入を考える層が多様化する中、住宅ローンでもさまざまな商品が提供されている。福井銀行(福井市)は、最長40年だった返済期間を50年まで延ばせる住宅ローンの取り扱いを始めた。
18~29歳が対象で、同行の担当者は「50年ローンだと月々の返済額が抑えられる。若い世代でも収入に見合った返済ができる効果がある」と、その意義を説明する。
50年ローンは、全国の地銀や信用金庫などで導入する例が増えており、8月には住信SBIネット銀行も取り扱いを開始した。
(東京新聞 TOKYO Webより引用)